僕が幼稚園から小学校4年生までよく遊んでいた友達がいます。
彼は「あきお」といって、すごくヤンチャな奴で、みんなで遊ぶ時はいつも彼が面白い事を見つけ、先頭を切る、それにみんながついていく、そんな奴でした。
がたいもよかったため、しょっちゅう喧嘩をしては相手の子を泣かせていました。
あと、とにかく自転車で走るのが速くていつも先頭を走っていました。
僕は自転車で走るのが遅くて、いつもついていくのがやっとでした。
家の中で遊んでいる時、外で暴走族が走る音が聞こえてくると、一目散にベランダに出て、
目をキラキラ輝かせながら「わぁ、かっこいいなぁ」と呟いていました。
僕は子供ながらに「こいつ、大きくなったら絶対暴走族になるだろうな」と思っていました。
そんな「あきお」とのエピソードです。
僕が小学校低学年位の時、近所で「シャララさん」という変なおばさんがいました。
シャララさんは全身花柄のド派手な服を着て、見たこともないバケツみたいな大きな花柄の帽子を被っていました。
そしていつも大きな声で独り言を言いながら、ピョンピョン跳ねたり、クルクル回りながら近所を徘徊していました。
僕はとにかくシャララさんがものすごく怖かったんです。
子供達の噂話では、シャララさんはいつも包丁を持ち歩いていて、シャララさんのバックから包丁の柄の部分が出てるのを見たと言う奴がいました。
僕はいつも、学校帰りにシャララさんと遭遇したら襲われるんじゃないかとビクビクしていました。
ある日、あきおと一緒に遊んでいた時です。
遠くの方で、花柄の女がピョンピョン跳ねているのが見えました。
僕が恐怖に怯えながら「あっ!?シャララだ!」と言うと、
あきおが「シャララ?なにそれ?」と言いました。
あきおはシャララさんの事を知りませんでした。
僕がシャララさんの事を説明すると、
「なにそれ!面白そうじゃん!話しかけに行こうぜ!」
「え??」
そう言って、あきおはシャララさんの方へ走っていきました。
は、話しかける??なにが??
僕の中でシャララさんに話しかけるという発想がなかったので、思わず固まってしまいました。
そしてものすごくビビりながらあきおについていきました。
しかしシャララさんは、あきおが何を話しかけても
「俺は神だ」
としか言いません。
あきお「なにしてるの?」
シャララ「俺は神だ」
あきお「どこからきたの?」
シャララ「俺は神だ」
あきお「じゃあ神様出してよ」
シャララ「俺は神だ」
僕「!?」
結局まったく会話が通じず、あきおは飽きてしまい、僕らはシャララさんの元を離れました。
しかし、この一件で僕の中での「恐怖のシャララさん」は崩れ去り、「ただの変なおばさん」に変わりました。
それ以来、シャララさんに怯える事はなくなったんです。
あと、僕の恐怖の対象はもう一つありました。
「こたろー」という野良犬です。
雑種の中型犬くらいの大きさで、見た目が汚いので妙に迫力がありました。
今では珍しいですが、当時は町を徘徊する野良犬が結構いました。
こたろーも、しょっちゅう町を徘徊していて、僕はとにかく「こたろー」が怖く、いつ噛み付かれるのではとビクビクしていました。
またあきおと遊んでいる時です。
こたろーが近くを通りかかったので、僕がビビりながら
「あっ!?こたろーだ、逃げよう!」
と言うと、あきおが
「あっ!こたろー!こたろーおいで!」
と言って、こたろーの方へ走っていきました。
そして、あきおはこたろーを撫で回し、無邪気に遊んでいました。
僕には猛獣と戯れるムツゴローさんにしか見えませんでした。
こうして「猛獣こたろー」は「たたの犬」に変わり、あきおはまたしても僕の固定観念をぶっ壊してくれました。
あきおはいつも、普通の子供が怖がる事に対して、まったく恐怖という感情を抱きません。
「面白そう!」が勝ってしまうんです。
だからいつも一人で突っ走り、僕らは振り回され、必死についていきました。
そして、しょっちゅう問題に巻き込まれ、先生に親を呼び出されたりして怒られました。
だけど、誰もあきおの事を嫌う人はいませんでした。
寧ろ、どこかでみんなあきおに憧れていたのだと思います。
僕の父は割とコワモテで、僕の友達とはあまり喋ったりしないので、友達からは結構怖がられていたのですが、あきおだけはなぜか僕の父にも普通に話しかけていました。
なので、父もあきおだけは気に入っており、「あいつは変な計算がなくていいな」と言っていました。
それから、僕は小学校4年生の頃にこの地域から引っ越しました。
あきおとはその後一度も会っていません。
親から聞いた噂では、僕の友達のK君が暴走族に入ったものの、抜けたくても抜けれなくなってしまい、その暴走族の上の立場にいた「あきお」が助けてくれたそうです。
本当の話かわかりませんが、やっぱり暴走族になってたんだね、あきお(笑)
そんな昔の友達の話でした。