前回の続きです。
はじめての方は、こちらから読んでいただけたら嬉しいです。
僕はデイブの家を出た後、日本人の友達に会っていた。
その友達にこれまでの事情を話し、とにかく700ドル稼がなくてはいけない事を伝えた。
「そんなの簡単じゃん!またバスキングをして稼げばいいんじゃん!」
「い、いやさすがにまた捕まるとどうなるかわからないし、それに楽器もないし・・・」
「だって他に方法もないんだし!やっちゃえよ!バレないようにやれば大丈夫だよ!」
「そういえば、前にお前から預かっていたディジュリドゥが車にあるよ!それ使っちゃえよ!いけるって!」
なんと以前、荷物がいっぱいで邪魔だからと彼に預けていたディジュリドゥがあったんです。
このタイミングで戻ってくるとは・・・。
結局その友達に後押しされ、町の中心から少し外れた所、city councilの目が届かない所でバスキングを始めることしました。
大きな紙に英語で「city councilに楽器と機材を没収されました!1週間以内に700ドル払わなくていけません、助けてください!」
そう書いて必死にディジュリドゥを吹きました。
通りすがりの人はその文章を見て、グッドサインをして投げ銭を投げてくれました。
もしかしたら助かるかもしれない、そう思えた瞬間でした。
バスキングの後、ブロウディと待ち合わせをしていると、なぜかブロウディは号泣しながらそこにやってきました。
異常なほどに号泣していたので、事情を聞くと、どうやら酒を飲んで酔っ払ったまま仕事に行き、オーナーに見つかって追い返されたらしい。
どう考えてもブロウディが悪いですが、あまりに異常な落ち込みようだったので、必死になぐさめました。
するとブロウディは「デイブの所に行く」
と言い出し、二人でデイブの元へ行く事になりました。
デイブの家に着くと、デイブは相変わらず上半身裸で待っていました。
するとブロウディがすかさずデイブに相談しはじめました。
正直、英語が速すぎて何を話しているのかよく分からなかったのですが、ただなんとなく「そりぁお前が悪い」
のような事を言われているのは理解できました。
20分位してデイブの家を出る事に。
ブロウディはこの世の終わりみたいな顔をしている。
僕は疲れていたせいか、かける言葉が見つからず、ボケーっとしたままエレベータへ向かいました。
そして、後ろを振り返るとブロウディがついてきていない。
少し戻ると、なんと
ブロウディがフェンスを乗り越えてマンションの9階から飛び降りようとしていた。
ボーっと下を見ながらフェンスに捕まり、体をフラフラと揺らしている。
とにかく僕はダッシュでブロウディの所まで走った。
「おいおいおい!!な、なにしてるんだお前!!」
ブロウディは何かぼそぼそと呟きはじめた。
「これは僕の人生だから僕自身で終わらせる」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て待て!落ち着け!!」
とにかく焦りすぎて、まともに英語が出てこない、それでも必死に説得を続けたがブロウディの耳には入っていない。
ブロウディは体をふらふらと揺らしている、そして、
ふいにフェンスから手を離した
その瞬間、僕は即座にブロウディに飛びつき、抱き抱えた。
「な、なにしてんだ馬鹿野郎!」
僕は脱力したブロウディをフェンスの内側へ引き戻した。
ブロウディは虚な目でずっと地面を見つめている。
僕はブロウディをなんとかエレベーターに乗せ、彼の家へ向かった。
家へ向かう途中ブロウディはすでに元気を取り戻していました。
しかし、心配だったのは恐ろしく浮き沈みが激しい事でした。
彼の家に着いた時には、すでにいつものテンションに戻っており、ノリノリで僕に英単語を教えてくれていました。
とても数十分前にマンションの9階から飛び降りようとしていた奴には見えませんでした。
その後、ブロウディと夜ご飯を食べに行く事になりました。
「おいしい日本食を教えてくれよ!」
そう言うと、ブロウディは上機嫌でリュックの中に酒を5,6本詰め込みはじめた。
エレベータの中で早速、缶をあけてグビグビ飲みはじめる。
マンションを出る時にはすでに2本目に突入していた。
ブロウディのテンションはどんどん上がっていき、通りすがる人に声をかけまくる。
ブロウディは携帯をなくしたらしく、途中ショップで携帯を購入。
そしてレストランへ向かいますが、途中、途中で人に絡むため全然先に進まない。
しまいには不良少女二人組に絡みはじめ、ベンチに座って話しだす始末。
女の子二人に挟まれて調子が良さそうなブロウディは、完全にご飯を食べに行く事を忘れている様子。
僕は面倒臭くなり、3人の会話が終わるまで町をぶらつくことにしました。
そして20分程して彼らの元へ戻ると。
ブロウディが一人でベンチに座っていました。
「やぁどこに行っていたんだい?さぁ飯を食べに行こう!」
そう言ってベンチを立った時、ブロウディの顔つきが変わった。
「あれ、あれ、ない、ないぞ!」
焦りながらズボンのポッケを探っている。
「おい、どうした?」
「ポケットにバイトの給料を入れておいたんだ!それがなくなってる」
「ちくしょう!さっきの女の子達だ!」
ブロウディは我を忘れて怒り狂い、女の子達の行った方向へ走り出した。
後を追いかけたが、女の子達はどこかへ行ってしまった後だった。
「うあぁぁぁぁ!くそくそ!僕はダメなんだ!僕は生きる価値がないんだ!!」
泣き叫ぶブロウディを僕はまたなぐさめながら街を歩いた。
すると前から、ブロウディと同じくらいの歳の男の子達が歩いてきた。
どうやらブロウディの友達らしく、ブロウディは彼らに今あった事を話しはじめた。
しかしほとんど相手にはされず、明らかに馬鹿にされている様子でした。
僕が黙ってそれを見ていると、その中の一人が話しかけてきました。
「おい、お前こいつの友達か?」
「えっ?ああ」
「こいつは頭がイカれているから気をつけろ、あまり関わらない方がいいぞ」
そう言って彼らは行ってしまいました。
恐らくデイブの家で出会ったのが彼らだったら、僕のことは助けてくれなかっただろう。
出会えたのがブロウディで良かったと思えた瞬間でした。
※ちなみにブロウディはさっき買った携帯をすでになくしていました。
その後、僕はバスキングを続け、貯まったコインを両替のため銀行へ持っていきました。
「786$」
渡されたレシートにはそう書いてありました。
体の力が一気に抜けました。
city councilまで楽器と機材を取りにいき
「今晩またやるなよ」
「二度とやるか」
そう言って、city councilを後にしました。
ブロウディに報告すると、自分のことのように喜んでくれました。
そして僕がサーファーズパラダイスを出る日、ブロウディに
「あまり酒を飲みすぎるなよ!」
と言うと
「good luck!! テクノディジュリドゥman!」
と言って送り出してくれました。
あれから15年以上経ちましたが、あのイカれた天使くんは元気だろうか?
そんな事を思う今日この頃でした。
終わり